前回の記事で、沖縄には県紙と呼べる新聞が二紙あり、しかもその両方の論調が革新・左派よりだとご紹介しました。ですからこの両紙における沖縄の米軍基地問題とは常に強い批判の対象であり、一貫してその県外移設を主張しています。

 面白いと言っては失礼かも知れませんが、沖縄のオピニオンリーダーである県紙が一貫して革新・左派寄りの主張をしているのに、県選出の衆議院議員の4名中3名が保守系の自民党議員で、県議会の与党も自民党系である(もっとも、中立系を含めれば野党の方が多くなるのですが)というのは、結構興味深いです。
 これはつまり、新聞が何を言おうと、米軍基地の存在がもたらす経済的利益を現実的に受け止め、それを活用しようとする層も確実にいるという証であり、ある意味バランスがとれている、ともいえると思います。

 ですが、今回の名護市長選最大の争点である米軍基地辺野古移設に関しては両紙ともに大反対であり、年末に移設を容認する発言をした仲井真知事は連日ぼろくそに叩かれています。

  その流れでいけば、知事と考えが近く移設容認派の末松文信候補に対しても相当批判的になるのでは、と思われますが、意外にもそうはなっていません。ここ約 半月の報道を見ても、両紙とも非常に公平な扱いをしています。選挙の際は偏らずに不偏不党の報道をする、という報道機関としての不文律を守っているように 見えます。

 例えば選挙公示後の13日の紙面では、琉球新報は2面・3面の見開きでそれぞれの候補を押す関係者を6人ずつ写真入りで掲載 し、それぞれの発言も6行ずつにまとめ、記事分量的に差が出ないよう、細心の注意を払っています。沖縄タイムスは応援者の写真はないものの、やはり5人ず つ、それぞれの主張も全く同じ行数にまとめています。

 もし両紙が日頃の主張(辺野古移設反対)を選挙報道で反映しようとすれば、現職で辺野古移設反対派の稲嶺候補の応援記事を圧倒的に多くするべきですから、そこは主張が異なる末松候補にもきちんと配慮した紙面になっています。

 ということで、両新聞においては毎日相当な量の記事が紙面を賑わせていますが、かたや選挙につきものの「選挙広告」は拍子抜けするほど掲載がありませんでした。

  これは先日も書きましたが、争点は国政を揺るがすほど巨大なのに、内実はあくまでいち地方都市の市長選挙であるため、両陣営共に広告出稿までバンバン出す ほどの資金がないからだと見るべきでしょう。昨日までは、末松陣営の記事中2段広告(掲載料15万円相当)が1回ずつ、両紙に掲載されただけでした。

  ところが選挙戦も終盤に入った今日、ついに稲嶺候補側も動き、15段広告(全ページ)を両紙に掲載しました。15段は1回料金が両紙とも267万円ですか ら、今日だけで534万円の出稿だったわけです。場所はいずれも全面広告が掲載できる一番最初の第6面で、非常に目立ちました。

 広告の内容は非常にシンプルで、

上段部分で「民意はハッキリ」という小見出しで
辺野古移設には反対 84%
仲井真知事を支持しない 65%、
安倍政権のやり方に納得しない 71%
という直近の世論調査の数字を提示。

そして中段で「名護は屈しない」という大見出しを打ち、
名護市の財政状況が基地関係なしでも好転している実績を
数字をあげて説明、最後に
「市民の誇りにかけて」という大文字で締めています。

  世論調査(正確には、名護市民というよりも沖縄県民の意識)と財政状況の説明に分かり易い数字を使い、そして最後に有権者のプライドに訴えかけるコピー (名護は屈しない。市民の誇りにかけて)の起用は、余計な飾り気などなく、非常に分かり易い紙面になっていると言えるでしょう。

 そこ で、これはどこの広告会社の制作ですか、と稲嶺選対事務所に尋ねたところ、「いや、これは事務所の担当者が知恵を出し合って作ったものです。広告会社は関 与していません」との回答でした。恐らく印刷会社など紙面制作に詳しい方がいて、事務所の意見をまとめたのだと思います。過剰な説明や候補者の顔写真ばか りが大きい選挙広告が多い中で、訴求点をきちんと整理して伝えているのは成功だと思います。

 さてこうなると、明日の朝刊に末松陣営の広告が載ることは必至でしょう。次回もお楽しみに。

■本間龍
著 述家。1962年、東京都に生まれる。1989年、博報堂に中途入社し、その後約18年間、一貫して営業を担当する。北陸支社勤務時代は、北陸地域トップ 企業の売り上げを6倍にした実績をもつ。2006年同社退職後、在職中に発生した損金補填にまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴され、栃木県の黒羽刑務所に1年 間服役。出所後、その体験をつづった『「懲役」を知っていますか?』(学習研究社)で作家デビューをする。服役を通じて日本の刑務所のシステムや司法行政 に疑問をもち、調査・研究を始める。また、福島第一原発事故後、メディアの姿勢に疑問を持ち、大手広告代理店とメディアの癒着を解説した『電通と原発報 道』(亜紀書房)を上梓。メディアと原発、司法行政と刑務所システムをテーマにした講演や著述、テレビ出演など、幅広く活動している。著書にはほかに 『名もなき受刑者たちへ』(宝島社)、『転落の記』(飛鳥新社)、『大手広告代理店のすごい舞台裏』(アスペクト)、『だれがタブーをつくるのか』(共 著)、『原発広告』(以上、亜紀書房)がある。
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